スパイファミリー「プロジェクト〈アップル〉」を神学してみた。
現在放送中のアニメで、あのイーロンマスクも大ファンだという作品といえばスパイファミリーです。娘もこのアニメに夢中になっています。かくいう私もハマっていて、家族で映画も観に行ったくらいなので、今回もキリスト教の牧師がアニメ・スパイファミリーをまじめに神学(考察)してみます。
さてこの作品には、エリート校イーデン校(Eden)という、旧約聖書の「エデンの園」を思わせるキーワードが出てきました。そして、その校章に“禁断の果実”として描かれがちなリンゴがモチーフになっている、という話は前回しました。
ところが、リンゴがらみのキーワードはそれだけではありません。フォージャー家の愛犬ボンドは、ただのモフモフ犬ではなく、未来予知という能力を持っています。その能力の出どころが、国家レベルの極秘研究「プロジェクト〈アップル〉」。……もう名前からして、怪しいですね。甘い果実っぽい響きなのに、やっていることは生き物を改造して“使える能力”を作り出す計画なのですから。
ここで神学の出番です。聖書の創世記で、アダムとエバは神様から「それを食べてはいけない」と言われた善悪の知識の木の実を食べてしまいます。すると二人は“知る”ようになります。ところが、知った瞬間に世界が明るくなるというより、恥と恐れが生まれ、隠れ、責任転嫁が始まり、楽園から追放される。知識は祝福にもなりうるのに、神を離れて“自分のために握る知”は、関係を壊してしまうのです。
面白いのは、聖書そのものは「禁断の果実=リンゴ」とは書いていないことです。それでも西洋の絵画や物語でリンゴが定番になったのは、言葉遊びや民間伝承の影響が大きいと言われます。英語で「Adam’s apple(アダムのリンゴ)」が喉仏を指すように、“あの果実が喉に引っかかった”という想像が、リンゴのイメージを強化してきたのでしょう。つまりリンゴは、歴史的事実というより、人間の想像力が作った「越境の象徴」になったわけです。
では、プロジェクト〈アップル〉は何を象徴するのか。未来を先に見る、敵を先に読む、世界を先取りしてコントロールする――それは、善悪を自分の基準で確保したい誘惑と似ています。「神に委ねて待つ」より、「先に知って支配する」ほうが安心に見える。けれど、その“安心”は、誰かを実験材料にしてでも手に入れようとする冷たさを伴ってしまう。ボンドが可愛いほど、この対比は刺さります。
リンゴは、禁断の味にもなり、知恵の象徴にもなります。問題は果実そのものではなく、それを「神なしで所有しようとする心」。プロジェクト〈アップル〉が描くのは、まさにその近代的な誘惑のかたちなのかもしれません。
今後もスパイファミリーをはじめ、アニメやゲーム、サブカルをテーマにして本職牧師のこのサイトの管理人がいろいろ神学(考察)していこうと思います。感想、コメントくださると励みになります。また、神学(考察)してほしいアニメやゲームがありましたら、コメントください。


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