ドラゴンクエスト1の「ゴーレム」を神学してみた

サブカルを神学してみた

サムネイルはドラゴンクエスト1&2 HD-2D版のゴーレムとの戦闘シーン

ドラゴンクエスト1の「ゴーレム」を神学してみた

今年2025年に再度リメイクされたドラゴンクエスト1&2。このゲームは単なる古いゲームのリメイクにとどまりません。日本におけるRPGの原点ともいえる作品です。そのドラクエ1でメルキドの町の入口をどっしり塞ぐ“門番”――それがゴーレムです。無言で通せんぼをするあの感じは、敵というより「壁そのもの」。そして面白いのは、力で倒すだけでなく、妖精の笛で眠らせて通るという攻略が用意されていることです。門番は、腕力だけでは越えられない壁として立ちはだかっているわけです。そんなゴーレムを本物の牧師が真面目に神学してみました。

実は「ゴーレム」という言葉そのものが聖書由来なんです。旧約聖書に一度だけ登場します。詩編139編16節で「胎児」と訳されている「形づくられていないもの(胎児の段階の“未完成”)」を指すヘブライ語が gōlem(ゴーレム) です。つまりゴーレムは、もともと“泥でできた怪物”というより、「まだ形になりきっていない存在」「未完成のいのち」のニュアンスを含む言葉でした。創世記が語るように、人は土のちりから形づくられ、神の息で生きる者となる――この「土+息(ことば)」の構図は、ゴーレム像に通じます。

そして単にゴーレムという言葉だけでなく、街を守る門番という役回りも16世紀プラハの町に伝わる伝承と関連しています。ユダヤ教のラビ(宗教指導者)、イェフダ・レーヴ・ベン・ベザレルが、ユダヤ人居住区(ゲットー)を守るためにゴーレムを作った、という有名な話があります。彼は1513–1609年の人物とされ、伝承では迫害や“血の中傷(根拠のない儀式殺人の疑い)”からユダヤ人居住区を守るため、川辺の粘土から巨人を形づくり、ヘブライ語の儀礼的な言葉や文字によって動かした、と語られます。いくつかある伝承の一つでは、額に「 אמת(エメト=真理)」の文字、口に“神の名”を記した札(shem)を入れて起動し、制御できなくなれば札を抜いたり文字を変えて停止させる――「人が“創造者”の真似をするときの危うさ」まで含んだ物語です。

ただ、ここは神学的に大事な注釈も必要です。史実として「ラビ・レーヴが本当にゴーレムを作った」かどうかは定かではなく、彼にその物語が結びつけられたのは後世だという説もあります。いずれにせよ、この伝承が語り継がれた事実自体が重いのです。なぜなら、門番が必要だったほど、ユダヤ人共同体に対する激しい迫害が存在していた、という記憶がそこに刻まれているからです。

迫害の苛烈さがプラハのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)の屋根裏に、ゴーレムの“遺体”が眠る――そんな伝説さえ生みだしました。つまりゴーレムは、ただの怪物ではなく、「守るために生まれた力」「しかし制御を誤れば脅威にもなる力」の象徴です。

ドラクエ1のゴーレムも同じです。町を守るはずの門番が、いつのまにか“通してはいけない者を排除する装置”になる。力は祝福にも抑圧にもなる。だからこそ、勇者に必要なのは腕力だけではなく、笛を吹くような知恵――力を相対化する別の謎解きが必要だったわけです。

今後もドラゴンクエストをはじめ、アニメやゲーム、サブカルをテーマにして本職牧師のこのサイトの管理人がいろいろ神学(考察)していこうと思います。感想、コメントくださると励みになります。また、神学(考察)してほしい、アニメやゲームがありましたら、コメントください。

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