統一教会問題から、にわかに注目を集めている反カルト法。
そして、フランスの反カルト法を日本でも導入できないかという声が日に日に大きくなっています。
確かに、統一教会はカルトで、統一教会は問題だし、そのようなカルトを一掃できる、反カルト法、魅力的なのはわかるんだけど、なんかもろ手をあげて賛成できない、うまく説明できないけど、偽善的というか、欺瞞的というか、モヤモヤする…。そんな人案外おおいのではないでしょうか?
そのモヤモヤを解説を試みます。そもそも、ワイドショー等で引っ張りだこで、今や時の人で統一教会問題に長年取り組んでこられたK弁護士が導入を勧める反カルト法のモデルはフランス法です。
どうして、アメリカ法でもなく、イギリス法でもなく、はたまたドイツ法でもなく、フランス法なのでしょうか?つまり、アメリカもイギリスもドイツもフランスのような反カルト法を制定せずに、ある程度カルトと折り合いをつけ、社会がカルトをコントロールをしているわけで、フランスだけがもっとも厳しい反カルト法を制定しているのです。
ただ、この反カルト法は、フランスの「ライシテ」の産物なのです。
ライシテとはフランスの政教分離を意味する言葉なんですが、世俗主義とも反教権主義とも非宗教主義とも訳される多義的な言葉で、フランスのフランスらしさ、フランス革命以降のフランス近代史を語る上でさけることができない概念といえます。
まあ私も偉そうに知ったかぶりをしていますが、私も法学部出での牧師でははありますが、フランスおよびフランス法の専門でもありませんし、フランス語を理解しません。他に専門家がいらっしゃるならその方に解説を譲りたいとも思っています。
が現在、フランスの反カルト法の背景にあるライシテの理解のないまま、反カルト法制定の声ばかりが大きくなっていますので、浅学ながら、ライシテに関連するフランスのトピックをあげてみます。そして、この反カルト法を日本に導入することがいかにヤベーことか肌感覚でわかっていただけると思います。
●絶対王政
いわずもがな、フランスといえばルイ14世に代表される絶対王政の国でした。
そして、カトリック教会の聖職者の第一身分と貴族階級第二身分で、第三身分である平民に圧政を敷いてきてきた訳です。王政とカトリック教権は混然一体となってフランスを支配していました。これが旧体制アンシャンレジームです。
●宗教改革者出生地
また、この我孫子バプテスト教会もプロテスタント教会ですが、プロテスタントの宗教改革者ジャン・カルバンってフランス人なんです。ただ、フランスはガチガチのカトリック教国だったので、弾圧をおそれて、フランスからスイスのジュネーブで逃避行したのでした。
●反キリスト教の祭典 理性の祭典
フランス絶対王政の反動でこれまた有名なフランス革命が起きます。その際、徹底的な反王政、反教会、反カトリック、反教権の流れがおきて、ここで「ライシテ」の登場です。徹底的な政教分離がおきます。そして、ジャコバン派の独裁、恐怖政治がおこり、そのなかで「理性の祭典」なるものまでやらかしています。これは極めて理神論的、反キリスト教的な祭りで、フランスじゅうの教会から十字架が取り去らわれ、あの有名なノートルダム大聖堂でさえ、「理性の寺院」に作り変えられました。あの有名な世界遺産モンサンミッシェルもこの時期に刑務所に転用されてしまいます。
「神様なんてくそくらえ、キリストなんて目じゃないぜ、人間サイコー、神に頼らなくても人間の理性は合理的で正しい判断ができる」
というお祭りを革命政府はフランスじゅうの教会で十字架をはずして行ったわけです。
まるで、近代版バベルの塔といってもいいようなおごり高ぶりをやらかした国、これがフランスであり、これもライシテの文脈で語られます。政教分離が行き過ぎて、宗教そのものを嫌悪するあまり、人間そのものを神様にして、フランスが一時期国家丸ごとカルト化し、逆らうやつはみんなギロチン…そんな時代があったのです。
●世界で最初の労働者革命の地
また、パリコミューンといって一時的ではありますが世界で最初の労働者による革命が成功し、2か月間だけですが、革新政府ができて、その後の社会主義・共産主義に大きな影響を与えたのもフランスです。
●公共の場所でロザリオ禁止
フランスはあまりに強固なキリスト教国、カトリック教国でしたから、その反動で、宗教嫌いなフランスの左派は徹底的な政教分離、世俗主義、ライシテを掲げます。そして、フランスでは公共の場所で敬虔なクリスチャンがクリスチャンらしいカッコをすることすら、無宗教の人間からすれば不快だからといって廃除します。つまり、クリスチャンが大きなロザリオを首からぶら下げて学校に来るだけで「政教分離違反だ!」といわれるような社会がフランス社会なのです。
●反イスラム、反移民主義にもライシテを逆用
ここまで、左派にライシテを振りかざされて、ロザリオを持つことすら禁止されるなら右派も黙っていません。「それならフランスに来ているイスラム教徒の移民女性が敬虔なイスラム教徒ぶって公共の場でスカーフをかぶっていることもライシテに反するではないか?」と反移民、反イスラムの理由づけに、ライシテ(政教分離)を逆用しています。
●欧州憲法から神を廃除
また、約20年前に、EU欧州連合で憲法をつくろうという話になりました。そして、憲法前文には当然国柄、国体について触れなければいけませんから、ドイツなどフランス以外のほかのEU主要国は憲法に、ヨーロッパの歴史や統一には当然、神やキリスト教に言及する必要があるので盛り込もうとしました。ところがフランスはライシテを理由にEU憲法にキリスト教や神に言及することに反対し、このEU憲法の話は頓挫してしまいました。
●右派左派双方からのカルトつぶし
反カルト法も宗教嫌いで、反キリスト教で、世界ではじめて共産主義革命を成功させたフランスの極左が賛成したのはもちろんのこと、ガチガチのカトリック教国であったのに徹底的なライシテのために抑圧されているフランスのカトリック教徒が、フランス国内で跳梁跋扈するカルトのことを苦々しく思っていたはずですし、そこで新興宗教カルトを抑えこめば結果として既存勢力であるカトリックを温存できるという思惑もあり、またカトリック教国で多数派であるカトリックがカルト認定されることはありえないという安心感もあってこの法案の制定に賛成に回ってそうしてできたのが反カルト法なのです。
このフランス独特なフランスを規定するライシテ、教権主義と反教権主義の愛憎が反カルト法をつくっているのです。
反カルト法関連で先日朝日新聞でも紹介されていた山形大学人文学部教授で憲法学者でフランス法が専門の中島宏氏は、著書の中で「その規模や教義の内容に関わらず宗教であると主張する団体に対する規制は、信敦の自由保障の観点から慎重且つ冷静であるべきであり、背景にある事情や法的伝統を見ずして反セクト法の安易な類似立法を求めるのは危険である」とおっしゃっています。
また、今やこの統一教会問題で時の人となっておられる、反カルト法を制定を要望しているK弁護士自身がいっています。日本で反カルト法を制定するのは「難しい」と
また、日本が世界一のカルトの吹き溜まりになっていると言及し、その原因も正しく分析されて次のように仰っています。
結局、日本には宗教のオーソドキシー(正統的な信仰)がない、つまり基準となる背骨のような宗教がなく、信教の自由の幅が大きいために、カルトを問題視したり監視したり批判したりすることが少ないのです。だから、カルトが繁栄してしまいます。
そうなんです。
「背骨となるような宗教もなければ法律もない・・・だから・・・反カルト法のようなものをつくるのが、極めて難しくハードルも高いけど、それでも目の前にいるカルトに苦しんでいる人を救うために、宗教2世をすくために反カルト法に準ずるものを作れないだろうか?」
これがK弁護士の精一杯のカルト問題に関する答えなのだと理解します。敬服します。そりゃそうです。K弁護士は法律家なのですから、そして彼の持てる最大の武器は法律ですから法によってカルト問題を、宗教2世を救おうとされることでしょう。
カルトは規制逃れをします。明確な基準を設けるとその明確な基準をギリギリクリアできるような脱法行為をしてきます。ですからフランスの反カルト法はわざとあいまいな基準を複数個設けてその基準に大体合致するかを「総合評価」します。しかし、その総合評価というのはK弁護士ご自身が仰っている、オーソドキシー、正統的な信仰、常識的な宗教センスなんです。熱心なカトリックの方はもちろんのこと、宗教嫌いな左派ですらも無意識レベルでしみついている「常識的な宗教センス」、歴史的キリスト教国フランスだからこそできる芸当なのです。
対して我が国、日本はそもそもそういうオーソドキシーがないのです。また、過去に共産主義団体を規制するつもりで制定した治安維持法を拡大適応し、戦前戦中に宗教団体にまでひろげてしまったという前科があります。
加えて、現在与党第二党に創価学会を母体とする公明党を要しています。もともとフランスの反カルト法は、この創価学会も、当時フランスで伝統的な仏教を装って伸張してきた新興宗教なので、これもカルトとして範疇にとらえようとして10の基準を設けた経緯があるくらいです。(現在は穏健化しているので現行のフランス反カルト法では創価学会はカルトとは認定されていないので、誤解のなきよう。)
で、あれば今もし日本で反カルト法を作れば与党第二党を解散させるのでしょうか?与党第二党を見逃して統一教会だけ狙い撃ちするような恣意的な運用をするのでしょうか?その運用をする人は立派なオーソドキシー(正統的な信仰)を常時持ち得て、末永くカルト団体を監視できるのでしょうか?
☆
私たちクリスチャンが法律の専門家ですら難しいという、そして、宗教に寛容で多神教・神道を信奉する人が多い、日本の慣習に合致しない反カルト法制定に迎合してどうするのでしょうか?
K弁護士自身が答えを教えてくれています。私たちクリスチャンにはオーソドキシー(正統的な信仰)があるのですから、法で縛ることによって、対決するのではなくて、この福音を宣教していくことをもって、オーソドキシーを持つ人を増やしていき、それをもってカルトに苦しむ人に、また宗教2世に真の救いを提供していこうではありませんか?
少なくとも、私個人としては、拙速な反カルト法の立法化には反対です。それに、政治家が悪い統一教会と関係を持つ方が悪いって、ワイドショーは視聴者に聞こえのいいようにいい、煽り、悪者を作って叩きますが、この30年間この問題に無関心を貫いてこんな結果を招いてしまったのは他ならぬ私たち日本国民自身なのです。低投票率で政治に無関心で時の風に流されやすく、そのため組織票に頼らざるを得ず、政治家が統一教会頼みに仕向けたのは私たち日本国民自身なのです。我が国は主権在民です。国民自身が選挙という「国会議員採用試験」の試験官であり、任期ごとに衆参700名あまりの国会議員採用試験と、雇用延長試験を行って、彼らを当選させてきたのです。そして、統一教会と関係を持つ方が国会議員採用試験に合格しやすい環境を30年間も私たち自身が作っておきながら、「今頃になってどうして統一教会と関係を持っていたのか」と国会議員を叩いたところで、そのような採用試験、そのような採用基準を設けてきたのは私たち国民自身なのです。国会議員たちは口には出さずとも次のように思っているでしょう。
「選挙は3年後だ。今ここで統一教会と関係を断つといえば、今は拍手喝采されるだろうが、3年後の選挙の時にワイドショー見て叩いている国民は私に投票してくれるだろうか?きっとほとんどが忘れていて投票に来ないだろう。ワイド―ショー見て叩いてくる視聴者は私を裏切るが、統一教会の運動員は決して私を裏切らず、三年後も投票もしてくれるし選挙活動をてつだってくれる」ってね。
最後に、フランスにもカトリックにも好意こそあれ何等悪感情を持ち合わせていません。
ただ、私の浅学ゆえに、また、私の表現力の稚拙さゆえにカトリックの方やフランスにルーツを持たれる方に不快な思いをさせてしまっていたらおゆるし下さい。
※サムネイルはフランス革命期に行われていた「理性の祭典」
コメント